今 敏監督を考えたい、そんな夜です

遺稿「さようなら」

毎年のようにこの日記を見て、色々な事を考えさせられてきた。

この遺稿はKON’S TONEの他のNOTEBOOKと同じように、時折愉快な調子が交じる文章で綴られている。でもその中から確かに感じる「死の実感」。初めてこの文章を見た時には衝撃しかなかった。2010年の自分には「死の実感」が全くなかった。そんな中、いつもの今 敏監督のユニークな文章の中から感じたそれに受けた衝撃の大きさを今でもよく覚えている。

そしてまた今年もこの日記を見て、色々な事を考えさせられた。

今年は特に感じる事が多かった。自分にとても近くて、大切な人がガンで亡くなったからだ。ガンが骨へ転移することの辛さや、自宅で終末ケアの迎えることの大変さは、今は2010年の頃の自分と比べると嫌というほど分かっている。詳細な事はこの日記でしかうかがい知る事はできないが、日記から感じる今 敏監督の最後は幸せなものだったのではないだろうかと感じる。(ちなみにKON’S TONE IIという今 敏監督のエッセイ集に遺稿「さようなら」に至るまでの「最後の3か月」を日誌が収録されているらしい。これは今は買えるのかな。【追記】こちらでデータを買うことができます。)

なんだかしんみりした内容だけになってしまうのもなんなので、以降は今 敏監督の代表作の一つ「PERFECT BLUE」をKON’S TONEの中で紹介されている今 敏監督の言葉を引用して紹介していこうと思う。ちなみにKON’S TONEには今 敏監督自身による制作秘話がボリュームたっぷり収録されている。これは今 敏監督ファンのみならずアニメ制作を目指す人々にも良い教本になるのではないかと思う。

PERFECT BLUE

海外での人気がとても高い今作品。アイドルとサイコホラーをミックスする面白さと、今 敏監督のレイアウトが光る作品。これぞ今 敏!と思われる方も多い作品だが、実は本人は以下のように語っている。

ストーリーはといえば、「清純派アイドルがイメージチェンジを図るが、その転身を許せない彼女のファン(変態オタク)が、彼女の清純さを守るため、 彼女の周りの人間を襲い、やがてはその純粋さ故に彼女自身をも狙う……」というようなものだ。ホラー的な要素もさることながら、出血の描写が多く、むしろ スプラッタ的な話であった。私は余りそういう趣味は持ち合わせていない。(KON’S STONEより)

こちらはパーフェクトブルー戦記としてホームページに収録されている。この文章は序文の部分。これ以降も今 敏監督の一人称の文章がとても面白い連載だ。

脚本家の村井さだゆき氏と作画監督の濱洲英喜氏の加入で一気に製作が進行したとの話が面白い。

テレビドラマの収録を見学

村井氏のご厚意で、氏が当時担当していたドラマ「怪奇クラブ」の収録を見学させてもらい、撮影所とロケの風景もゲット。手際の良いスタッフの動き に感心。出演者の中にやけに目を引く女の子がいたが、道理で野村佑香ちゃんだった。間近で見た彼女は大変可愛く、取材ビデオは宝物。ホントか。
ドラマのスタッフの方は主にTシャツにジーパン姿で、どこかアニメの現場の人間と似た匂いを持っていた。裏方さんといわれるだけに、セットの中と外にはきっちりと線がある、と深く感じ入る。(KON’S TONEより)

こちらはBlu-rayの特典として収録されていた「パーフェクトブルー講座」でも語られていたエピソード。というかこの「パーフェクトブルー講座」って特典映像としては豪華すぎるものなので是非「PERFECT BLUE」のBlu-rayを購入して確認してほしい。今 敏監督が実際に映像を見ながら解説するオーディオコメンタリーならぬビジュアルコメンタリーは必見だ。

「愛の天使」

「あまり売れて無さそうな感じでお願いします。」

 ♪恋はドキドキするけど愛がLOVELOVEするなら もっとガンガンいこうよ きっとチャンスはあるから 愛の天使は微笑んでるよ♪

何と言っていいものやら。恋はドキドキするものかもしれないが、愛はLOVELOVEするものなのか? ガンガンいくって何だ? しかも、いこうってなげかけられてもな…。ま、注文通りであるからしてなにも文句は、無い。

チャムの曲の歌詞や振り付けの一連の経緯。ユーモアあふれる現場だったのかな。今 敏監督の制作現場ってどんな雰囲気だったんだろう。なんだかチャムの後ろにキレのある踊りを披露する30過ぎの男が見えてきたような気がするぞ。

レイアウトへのこだわり

レイアウトの善し悪しの判断基準は、絵の上手い下手や個人的な好みも無論であるが、むしろ演出的な問題の方が多い。というより画面を作るということ自体「演出」なのだ。単に絵としての収まりというより、たとえば画面内の人物の心理状態や心象、複数の人間が登場する場合彼らの人間関係、力関係を考慮して画面内に配置したり、カメラアングル等を決めることが重要である。またそこに配置される対象も、心情や以後の話の展開を象徴するような物であるので、作品やシーンを理解していない限りレイアウトを決めるというのは難しいと思われる。絵がいくら上手くてもその使い方を間違えていればアウトだ。(KON’S TONEより)

海外の複数の映画監督をファンに持つ今 敏監督の特筆すべき点といえば間違いなくレイアウトだ。オマージュとして同じ構図が使われた作品もあるほどだ。

さてパーフェクトブルー戦記ではこのような濃い内容の連載がその24まで投稿されている。さらに番外編もある。そしてそれが「PERFECT BLUE」のみではなく他の作品分もたっぷりある。先程も書いたがこれは貴重な記録資料である。まだ未読の方はたっぷりと時間に余裕のあるときに今 敏監督の文章に浸ってもらいたいと思う。当然、映像にもだが。

「夢みる機械」

一番の心残りは映画「夢みる機械」のことだ。

映画そのものも勿論、参加してくれているスタッフのことも気がかりで仕方ない。だって、下手をすればこれまでに血道をあげて描いて来たカットたちが誰の目にも触れない可能性が十分以上にあるのだ。
何せ今 敏が原作、脚本、キャラクターと世界観設定、絵コンテ、音楽イメージ…ありとあらゆるイメージソースを抱え込んでいるのだ。(KON’S TONEより)

遺稿「さようなら」で言及されている文章。「夢みる機械」の現在は一体どうなっているのだろうか?「夢みる機械」の公式サイトは製作続行決定を知らせる2010年11月14日のニュースを最後にアップデートされていない様子である。またこちらの公式ブログの方では2011年6月までの更新を最後としている。

制作スタッフとして紹介されている数人を見ていこうと思う。

まずは板津匡覧氏。キャラクターデザイン、作画監督を担当されている。最近では「百日紅~Miss HOKUSAI~」での作画監督をされている姿を劇場公開のメイキングで拝見した。そしてキーアニメーターである鈴木美千代氏は「思い出のマーニー」や「百日紅~Miss HOKUSAI~」の原画を担当されていることで記憶にあたらしい。

演出を担当されていたのは糸曽賢志氏。クラウドファンディングや助成金など使い、その他にもかなり独自な作品製作・商品展開で話題になった「サンタ・カンパニー」を2014年に発表されている。糸曽賢志氏はアニメーションを制作の視点からもプロデューサーとしての視点からも見ることができる稀有な存在であり、彼の働きかけはひとつの大きな原動力となるではないかと思う部分である。


さて記事も長々と続けてしまったが、もうすぐ2015年8月24日が終わりそうだ。

僕は現在、今 敏監督のように素晴らしいアニメーションを作ること(そしてユニークな文章も書くこと)もできない。しかし近いうちにアニメーションを自由に作る事ができ、そしてクリエイターはその制作を通じて充分に暮らしていけるような環境を作る事を目指している。簡単な道では無いことは常々実感しているが、今 敏監督を見習い、楽しく挑んでいこうと思っている。

最後になりますが、今 敏監督、心よりご冥福をお祈りします。
(source: KON’S TONE

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