CACANi

デジタルアニメ制作環境の未来:『CACANi』のビジネスマネージャー、Liew氏が語る

CACANiの中の人は、アニメ制作環境の事をとてもよく考えていました。

自動中割り生成機能」付きアニメーション制作ソフト、『CACANi』。日本でもACTF (Animation Creative Technology Forum)で発表され、大きな衝撃と反響を呼びました。そんなCACANiも今年に入りVersion1.1がリリースされ、われわれStudioDomo(JapanAnimeMedia)でも実際にその機能を試してみました。

ドローイングを強化する為に線を滑らかにする「スムージングモード」が強化されたり、マスク指定範囲外のストロークやオブジェクトを隠す「クリッピングマスクモード」の実装など、アニメ制作の為の必要な機能の拡充を感じました。しかしそれと同時にこのソフト最大の特徴「自動中割り生成機能」に関してはまだまだ改良の必要を感じました。

「ソフトの事や、今後の展望について色々聞いてみたいなぁ….」

ということでCACANiに連絡を取ってみました。するとタイミングよく日本に来ている担当者がいるとの回答。これは直接会ってインタビューしなければ!インタビューを受けていただいたのはCACANiでBusiness Develop ManagerをされているLiew氏。少ない滞在日数で多忙な中、スケジュールを合わせていただき1時間以上にも渡ってとても丁寧に答えていただきました。

CACANiの目標とは?

Mr. Zee Liew Hong from CACANi

Mr. Hong Ze Liew from CACANi

ーCACANiの目標とは?またこのソフトをどのような人達に使ってもらいたいですか?

私達の目標は、2Dクリエーターにとって役立つものを作り出すことです。

3Dクリエーターにはとても便利なツールが数多くありますが、2D用のツールは今も多くありません。2Dと違い3Dは元々コンピュータから始まったものなので当然なのですが。また、「2Dは旧式で3Dは先端アート」という認識の違いがあり、自ずと収入のレベルも違ってきます。私達はそんなある意味不遇されている2Dを少しでもサポートするためにCACANiを開発しました。2Dクリエーター達が長年培ってきた技術や経験は、ただデジタル技術が進歩したからといって、全て捨て去って良いものではないと思います。

CACANiのメインターゲットはアニメーションをする人であれば趣味やフリーランス、プロのアニメーターと幅広く考えています。もちろん、アニメ制作初心者にとっても良いツールになるでしょう。

ーCACANiはアニメーターだけでなく、イラストレーターや写真家の人達にとっても役立つツールですよね。

そうですね。CACANiを使うことによってアニメ制作経験が無い人でも簡単に短いアニメーションを作ることができます。作品を完成させる前にの段階でサンプルを作ったりするにも便利だと思います。

ー特定の国や地域をターゲットにしていますか?

シンガポールのサイズを考えると、私達のビジネスは常に海外を見るところからスタートします。メインターゲットは日本、東アジア、アメリカ、イギリスやフランスなどのヨーロッパあたりですね。先日は、Wacomからコンタクトがあり、ACTFに招待されました。私達は日本のアニメーションに深く影響されているので、とても良い機会をいただいたと思っています。

ACTFでの登場は強いインパクトを与えた

CACANi

CACANi

ー “ACTF (animation creative technology forum)”ではCACANiの登場は驚きと戸惑いを巻き起こしたと思います。そのことについてはどう思いますか?

思いの外良い反応が返ってきたのには驚きました。デジタルアニメーションの宿命ですが、どうしても絵が手描きより「硬く」見えてしまいます。その辺りは日本のアニメーターから反発があると思っていたので…。

ーACTFでは「CACANiは動画の作業の全てに取って代わるものではない」と発言されていましたが、実際心配している人は多いようです。

アニメーションは特殊な分野の芸術であり、また商業芸術でもあります。クリエーターによって、CACANiが良いツールと思うか、悪いツールと思うかは違ってくると思います。しかし、CACANiはあくまで「ツール」でしかありません。CACANiを使って良い作品を作りたいと思うクリエーターがいる限り、私達はより良いものを作っていきたいと思っています。

そんな環境をCACANiによって少しでも改善できたらと思っています。

アニメ制作において、コンピュータでは決してたどり着けないレベルは確実に存在します。そんな時は必ず人の手が必要になり、クリエーターの手によってようやくアニメは「芸術作品」となります。同時に、現状のアニメ制作では一人一人のクリエイターが膨大な量のカットを描く必要があります。クリエーターが多くいない制作環境の場合、作品の完成に向けて一人のクリエーターが膨大な時間を費やす必要があり、それが過酷な労働環境を生み出しています。そんな環境をCACANiによって少しでも改善できたらと思っています。

ーCACANiが最も適しているキャラの動きやシーンはどういったものでしょうか?

現時点ではキャラクターが360度回転するシーンなどはCACANiで自動中割りを生成することは難しいです。CACANiは動きの小さなシーンの方がより効果的です。手描きでは原画間に大きな変化がない場合でも動画は1枚1枚描かなければなりませんが、CACANiの場合は動きが一定なシーンなどでは自動中割りを生成できます。この点においてCACANiは最も力を発揮します。これからはユーザーのフィードバックを集め、より複雑な動きにも対応できるよう改良していく予定です。

ーCACANiのコアとなる構造はこれまで大きく変更されたことはなかったように見えますが、これから大規模なアップデートなどはある予定ですか?

それは私達も常に考えていることですが、少し問題があります。コアに手を加えるということはビルを建て直しているようなものなので、相当な時間がかかります。もしコアが劇的に改善される何かが見つかれば、それでVersion2ができるでしょう。現在取り組んでいることは、フィードバックを集めることと、それらを咀嚼すること。フィードバックは常に明確なものばかりではなく、本当にユーザーが求めているものを正確に読み取ることが大切にしています。

「1人のアニメーターができる範囲」

Mr. Zee Liew Hong from CACANi

Mr. Hong Ze Liew from CACANi

ーCACANiは「1人のアニメーターができる範囲」を拡げるツールだと感じます。

「アニメーター」の定義については意見が分かれますね。私達も「アニメーター」を正確に定義することはできませんが、あまり拘りもありません。クリエーターが私達の技術によってより早く、簡単に作品を作ることができるようになることが私達の目標です。アニメーターの幅が広がるのは嬉しいですね。

ー日本のアニメ制作現場では、細かく作業が分担され、作業ごとに給与が支払われます。そんな日本では「一人の範囲を拡げる」ツールは歓迎されないかもしれません。

やはりバランスが大事ですね。CACANiによって全ての制作現場を変えたいとは思いません。しかし、制作現場には必ずCACANiが役立つ場所があるとも思っています。CACANiは制作会社・スタジオ・クリエーターで取り決められた日本の制作システムを変えるためのものではありません。私達はもっと日本のアニメ制作の現状を理解することができると思いますし、もし日本の方々が一緒にやりたいと思ってくれるのであれば、協力は惜しみません。全ての人にCACANiから何かしら得るものがあれば嬉しいです。

ーCACANiはフリーのクリエーターや監督にとっても便利なツールですよね。

私も元はフリーのクリエーターでした。制作初期段階での動きのサンプルにとても良いですね。CACANiで簡単なアニメーションを作れば、絵コンテやイメージボードなどを用いるより正確に作品のイメージを共有できます。作品が出来上がってから修正するより遥かに効率がいいです。

ー実際にCACANiを使用してみて思ったのですが、途中で線の編集をしたい(自動中割り生成が線の向き、描き順などを基準に作られる為)と思うことがあります。例えば2枚の原画が異なる線数で描かれていた場合、それを修正する方法はありますか?

それは他のユーザーからもリクエストがありました。今後のアップデートで追加したい機能です。現時点では2枚の原画の関係性をチェックする機能があり、それを見て手動で編集が可能です。それを自動で行う機能を追加したいと思っています。

日本のアニメ制作現場では「紙と鉛筆」での作画がメイン

imaged by Richard, enjoy my life!

imaged by Richard, enjoy my life!

ーご存知の通り、日本のアニメ制作システムは意外な程に多くの比率を紙と鉛筆においています。理由は明確で第一線のA級アニメーターが紙と鉛筆での作画に慣れていて、デジタル導入にメリットを感じないからです。一方で、制作システムの後半プロセスはほぼデジタルに対応しています。このような現状をどう思いますか?

全てをデジタル化する必要は決してなく、ハイブリッドを目指していくべきだと思います。

お父さんにパソコンの使い方を教えるのと同じことですよね。「紙とペン」もシステムの一つです。数千年前に発明された最も直接的なシステムです。「紙とペン」と比べると、デジタルソフトにはたくさんボタンや機能があり、とても複雑です。そのソフトを「紙とペン」と同じくらいシンプルにするのは不可能です。

慣れ親しんだアナログな技術からデジタルに移行することは、容易なことではありません。完璧な解決方法があるとも思いません。アナログな技術によって素晴らしい作品が今尚生まれていることも事実です。全てをデジタル化する必要は決してなく、ハイブリッドを目指していくべきだと思います。

また、デジタルに慣れ親しんだ若い世代や、アナログとデジタル両方が使える中間の世代がでてきています。彼らがCACANiに解決策として興味を持ってくれるのであれば、ぜひ協力したいと思います。古い技術はのこしていかなければなりません。最終的に古い技術も新しい技術も両方が使えるようになればいいと思います。

コンピュータにしか出来ないことがあり、同時にコンピュータだから出来ないことがあります。「紙とペン」も同様です。双方を融合させることが大切だと思います。CACANiだけがその解決方法だとは思いません。他にも素晴らしいソフトはたくさんあります。大切なのはクリエーターがより良いものをより良い環境で作り出せるようになることです。CACANiもその目標を実現するための一部になりたいと思います。

よりシンプルなソフトであることがデジタルソフトにとっても大きな課題

Mr. Zee Liew Hong from CACANi

Mr. Hong Ze Liew from CACANi

ーCACANiは他のソフトと比べ、非常にシンプルな操作性を持っています。操作性の簡素化は開発時の課題でもあったのでしょうか?

紙とペンで描くよりデジタルで描く方が遅くなってしまったら、ソフトを作る意味がありません。ソフトをよりシンプルにすることはどんなデジタルソフトにとっても大きな課題です。ソフトを簡素化するには機能をいくつか排除していく必要があります。ですが、簡素化は手段であって目的ではありません。

私達が目指しているのは、「紙とペン」での制作環境をデジタルで再現することではありません。クリエーターがより早く、簡単に結果が出せる環境をデジタルで作り出すことが、私達の目標です。

ーCACANiの未来とは?

私達の目標はクリエーター、特に2Dクリエーターが私達の技術でより早く、簡単に作品を作り出せるようになることです。CACANiを使うことにより、2Dクリエーターがもっとたくさんの作品を世界中に発信できるようになり、それによって 2Dアニメのファンも増えること。私達はCACANiがそんなアニメの未来を作るひとつになれたらいいと思っています。

フォーラムFacebookページもありますので、ぜひ見ていただきたいです。


インタビュー後、我々がCACANiに感じていた予感は確信めいたものに変わりました。現状、CACANiはいくつかあるアニメ制作ソフトのひとつでしかありません。しかしそのソフトを開発する中の人達からはアニメ制作に対する強い想いが伝わってきました。彼らがCACANiの先に目指すものは、アニメ制作の未来を大きく変えるかもしれません。

(取材:小路直哉、迫田祐樹)

(撮影:迫田祐樹)

(記事構成:小路直哉、JapanAnimeMedia編集部)

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