【前編:第8回アニメ制作4.0定例会】アヌシー国際映画祭から感じる海外のアニメビジネス、そしてストーリーボードの有用性について

さて。あっという間に梅雨も明け、すっかり真夏の陽気の7月上旬に、こちらも熱く、第8回「アニメ制作4.0定例会」に行ってきましたよ。毎回になりますが、どういった会なのかを簡単にご説明させてください。

アニメ制作4.0定例会とは?

「アニメ制作4.0定例会」とは監督 / アニメクリエイターのりょーちも氏とトワフロのプロデューサー迫田氏が発起人となりアニメ業界の課題としてよく議題に挙がる「デジタル、教育、お金」の解決に向けて、業界内外から経験値をシェア、研究、テスト、実践までの一連の試みをするグループの総称。とかく外の業界との交流が苦手なアニメーション制作業界人の円滑な交流の場としてかなり好評を得ています。

今回は会の発起人の一人であるTwi-floプロデューサー迫田氏が、自身のプロデュース作品「クラユカバ」にて参加したアヌシー国際アニメーション映画祭/MIFAから帰国直後ということもありその報告と海外マーケットについてのディスカッション、(筆者自身の体験記も近日中に公開予定)ストーリーボード/スクリプトの有用性、そしてBlenderでの最新実績報告です。

定例会も回を増すごとに話される内容のレベルが確実に上がっており、筆者もついていくのがやっとの定例会ですが、今回も備忘録としてまとめてみました。

また、当定例会では現状のアニメ制作の課題と解決を真剣に考えている人たちの参加を募っております。詳しくはこちらよりご連絡ください!

(会場協力 :wacom)
今月のアジェンダ

・海外のアニメと海外からみた日本のアニメビジネス(アヌシー映画祭報告)

・ビジネス観点から見たストーリーボード

・Blender 制作プロジェクトの進捗

アヌシー国際アニメーション映画祭&MIFAの報告

海外のアニメと海外からみた日本のアニメビジネスについて。MIFAへの参加の意義とメリット

アニメクリエイターの海外進出を支援している都のプロジェクト事業「Tokyo Anime Business Accelerator」(以下、Tokyo Anime)はご存知だろうか。

Tokyo Anime Business Accelerator(公式サイト)

東京都が主幹となって運営されている本事業では、アヌシー国際アニメーション映画祭に併設されるアニメーション見本市「MIFA」へ出展する東京都ブースへの作品出展を支援するプログラムを実施している。

Twi-flo迫田氏は自身がプロデュースする塚原重義監督作品「クラユカバ」でこのプログラムへ参加した。セミナー受講や作品ピッチ(アニメピッチグランプリへの参加)を経てグランプリを受賞し、アヌシー映画祭への参加とMIFAへの出展の権利を獲得したのだ。

今回はそのプロセスを紹介してもらうと同時に海外でのアニメビジネスのリアルを共有してもらい、ディスカッションを行った。

Twi-floプロデューサーの迫田氏

東京発アヌシーへの道のり

まずは毎年夏頃から始まるTokyo Animeが主催する海外進出のためのセミナーを受講する。ここから約1年をかけてアヌシー行きの切符をかけた企画書の準備が始まるのである。

セミナーでは海外から出資を受けやすい作品作り、企画書のポイントなどを教わることができる。なお本セミナーはピッチへの参加の予定はなくても受講OK。特に作品紹介のためのバイブルやスクリプトは海外での資金調達には必要不可欠な重要なツールなのだが、それらのセミナーを聞けるのはとても貴重な機会だ。

約1年をかけて準備される企画書とサポートの内容(一部)

数ヶ月の苦労が実って無事にTokyo Animeのピッチをパスしアヌシーでのピッチする権利を得たらいよいよ現地MIFAでの商談の準備フェーズとなる。

MIFA出展時に必要となる準備物(一部)

ピッチ選出以後はTokyo Animeの支援を受けながら、バイブルのレビューやピッチ資料の添削や英語のレクチャーなど細やかなサポートをうけることができる。

アヌシー映画祭と街の雰囲気

筆者も実際に今年のアヌシー映画祭に参加してきたので、ここからはその経験や主観も交えて紹介していこう。

アヌシーという街はフランスで有数のリゾート地なので、映画祭参加者は半分バカンス気分の人も多い印象。また、主にヨーロッパやオーストラリアなどからの就活学生も多く訪れる。日が落ちるのも遅く、街は夜中まで常に多くの映画祭参加者や観光客で賑わう。

アヌシーの旧市街。午後9時くらいまで明るい

MIFA会場はアヌシー湖のすぐ近くだ

映画祭の期間中、街中でとにかく様々なイベントが行われており、すべてのイベントを把握するのは不可能だ。公式サイトや会員専用アプリを駆使して各種イベントのスケジュールを確認したり、上映チケットを予約したりできる。

アヌシー映画祭やMIFAにあまり馴染みのない読者のために補足説明をすると、MIFAとは、毎年、映画祭と並行して行われる世界中のアニメ制作者が集まる見本市のことである。そして意外なことに「アニメ大国」日本からの参加数は少ないのが実情だ。

ちなみに毎年ゲスト国として一つの国がMIFA会場に大きいブースを構えるようで、今年のゲスト国はブラジルだった。

気になるMIFA東京ブースでの商談の内容は?

現地のMIFA出展期間中(トータル5日間)は分刻みのスケジュールで商談が行われる。こうした面談相手は、東京都があらかじめ予定を調整してくれている。

MIFA東京ブース

会場には海外でのビジネス経験があったり、迫田氏同様にMIFA出展経験者がいたため話が盛り上がった。その中で出た肝心の商談を進めるにあたり出展者がおさえておくべきポイントをリストアップしてみた。

  • ヨーロッパ(特にフランス)では現地プロダクションと共同制作をすることで得られるアニメ制作への助成金の種類が豊富。またそもそも国からクリエイターへのサポートが手厚い
  • 反面、契約はしたたかなので、著作隣接権など権利面のイニシアティブは明確に
  • 制作予算は低めに設定すると出資されやすい印象(1話100万〜200万ほど)
  • 海外ではエピソード数が多くないと市場の受けが悪い(30話以上はほしい)
  • すでに完成した作品でないと、アクションは起きにくい印象
  • 作品テーマはグローバル市場をターゲットとするなら、ノンバーバル(非言語的)、動物キャラなどが安定的な人気
  • 日本での制作出資は原作人気や監督の知名度などが要因になるが、海外はスクリプト(脚本)が非常に大事

「クラユカバ」ブースには、商談の他にも作品の世界観などに興味を示した多くの学生やクリエイターがタブレットPCを片手に訪れ、自身の作品をアピールしつつどうすれば一緒に制作できるのか、日本のアニメ業界に就職するにはどうすればよいのか、など熱心なやりとりが多数あった。海外のクリエイター志望の学生のレベルは相当高く、迫田氏にとっても嬉しい驚きであったという。

Twi-flo「クラユカバ」ブースに訪れるクリエイターたち

「TOKYO フォーカス」のテリトリーピッチとジャパン・レセプション

アヌシー映画祭に参加したアニメプロデューサー、クリエイターにとって最も緊張するのが自身の作品を世界の舞台でプレゼンする「テリトリーフォーカス」だ。

本年は5作品がエントリーして、それぞれの作品のプロデューサーやクリエイター5名が各自10分間のピッチを行った。世界の舞台で自分の作品を紹介できるとてもレアな体験だ。特に日本からの新進作家には、世界からの期待度も高いようだ。

今年ピッチに立った日本のクリエイターたち

映画祭も後半に差し掛かると、MIFA会場がある湖畔のバルコニーに設置されたとても気持ちの良いカフェテリアで、日本主催のレセプションパーティが開かれた。

MIFA会場内のカフェテリアは雰囲気が最高

ここでは今回参加した邦人関係者が一同に会し、ポリゴンピクチュアズ塩田社長をはじめ、それぞれのピッチを終えたクリエイターからの自己紹介や世界中のアニメ関係者との交流の場が持たれる。本当に世界中のさまざまな国から、ビジネスやコラボレーション、雇用の可能性まであちこちで話し合われる、とても刺激的な場所となる。

海外アニメマーケットの実情

アヌシー国際アニメーション映画祭2018年メイン会場

今回のアヌシー映画祭への参加で得られたいろいろな体験と知見の中でも、実際にリアルな海外マーケットを肌で感じることができたのは貴重だと迫田氏は語る。

世界ではアニメというと3DCGが中心で、日本のような2Dアニメ(作画アニメ)のシェアはあまりない。現代の海外(EU圏、アメリカ)の子供たちは一昔前と違い、日本の2Dアニメを見る習慣はあまりなく(SVODの登場もあり機会は増えているが)一般的に大人はアニメをあまり見ない。

MIFA会場内のカフェバー

日本では、アニメ「キャプテン翼」などが海外で大人気というイメージだが、実際はスポーツをテーマにした作品は海外ではあまりニーズがないという。スポーツは観戦して楽しむのが一番という価値観が根強い。

それでもアヌシーで日本人はモテモテ?

日本のアニメは子供向けの他にも、大人向けというカテゴリーが独自に発達しているが、海外ではまだまだこれからの分野で、Netflixなども「Adult anime」(18禁ではない)として、日本をマーケティング拠点としているほどだ。

市街の雑貨屋にて。高畑勲監督追悼特集の雑誌が

こうしてみるとガラパゴス感いっぱいに聞こえるかもしれないが、一方で良いニュースもある。

映画祭の期間中、いたるところで日本作品関連イベントが開かれていた。「未来のミライ」細田守監督、Netflixオリジナルアニメ「B:the beginning」 中澤一登監督、「ペンギン・ハイウェイ」石田祐康監督、新井陽次郎キャラクターデザインが登壇したセミナーや上映会はどれも満席で大好評だったし、MIFA会場の各国ブースをパッと見渡しても、日本スタイルのアニメを制作しているのは日本以外に見当たらない。

特にフランスでは少なくとも日本のアニメは「オルタナティブ」なお手本としての地位を確立している感がある。アヌシー全体が日本アニメを歓迎している感触が伝わってきた。

事実、来年のゲスト国は日本になるという。

「クラユカバ」への反響と日本の作家の可能性

Twi-flo「クラユカバ」ブースに立つ塚原監督

最後に今回、アヌシー映画祭に参加して分かった事を改めて書いていこう。

一つめにはアニメに限らず映像クリエイターが海外へ打って出るにはまずは「スクリプト」がとても重要な要素になること。迫田氏もこの点に関しては強調する。

海外には多くの民族や宗教が存在し異文化圏をまたいだ国も多く、観客の価値観の違いはもちろん差別や問題に対する感じ方も違うので、まずはスクリプトでヒットの可能性やそもそも流せるかどうかを判断するのだ。

また、日本では定着していないが脚本がいろいろな人の目に留まると流出や盗作問題なども不可避なので、各種機密保持契約のかわし方なども知っておく必要がある。

また、#Metooに始まり世界中を席巻しているセクハラや男女平等の問題、人種やLGBTQなどのダイバーシティの問題意識などの作品への投影も確実に波は押し寄せてきている。

日本のクリエイターにも進化や工夫が求められる状況ではあるが、アドバンテージもあることがわかった。迫田氏は「クラユカバ」のアヌシー映画祭への出展では多くの人から「アートワークが良い」などダイレクトな評価が得られたことが今後の作品作りにとって大きいと語る。

日本国内では国内独特の商慣習から出資が成立しにくいような作品でも、海外では別の観点で評価される可能性もあるのでチャレンジする価値はあるだろう。

資金調達までのリアルなお話も

ちなみにこの話を受けて今回のアニメ制作4.0定例会では、資金調達するための例としてハリウッド大作のファイナンスの実例なども飛び出した。かなり具体的な例も出たので詳細は省くが、さまざまな要因でヒットの可能性がある脚本などは公開から逆算して5年くらい前には売買契約が結ばれるという。

参加者自身からもリアルな実体験が飛び出すのはこの定例会の醍醐味だ。

後編へ続く

(取材、文責、写真:橘 茂生)

(編集:JapanAnimeMedia編集部)

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