【第7回アニメ制作4.0定例会】りょーちも氏によるBlender途中経過〜新進気鋭のコンセプトアーティストの話が聞けた第7回をお届けします!(後編)

前回は、前編をお届けしました。引き続き後編をどうぞ!

その2)海外でのコンセプトアートについて

2時限目はコンセプトアートについて。スピーカーをまずはご紹介。

ツインエンジン 曽根悠毎氏

ゲストスピーカーである曽根悠毎氏はL.A.育ちのアニメ監督、コンセプトアーティストだ。

4歳の時にカリフォルニアへ移住し、その後、同州L.A.アートセンター(アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン)ヘ進学、在校中に宿題として企業向けのプリプロを提案するプログラムでディズニーの某作品のコンセプトアートワークが目に留まり、その後ピクサー社の作品に参加。現在はツインエンジンにて監督、コンセプトアーティスト業に就いている。

スピーチでは、海外(おもにピクサー社内)でのコンセプトアートワークと考え方、テクニカルな面よりも「場の作り方」について貴重な内容をお話しいただき、またその場で日本との比較など熱いディスカッションが行われた。

そもそも海外(アメリカ)の現場でのコンセプトアートとは。

筆者もディズニー原画展などで、作品ごとに何十点もつくられるコンセプトアートの質の高さに舌を巻いたものだが、そもそもこの工程では具体的に何を決めているのか。

海外(ここではピクサー社)でいうコンセプトアートの定義と日本のそれとの最大の違いとは、形式やルックのことでなく「姿勢」のことを指す。作品の姿勢や考え方を時間軸でとらえ、そもそもの作品の存在意義(Why?)や共通語(Common Language)を設定し、メインプロダクションへ入ったときに迷ったり、大きな判断を下す際に、常に立ち返るようにして、スムーズに進められるようにする作業全体のことを指す。

ただ単に作品の世界観を定めるというより、制作の時間的な効率を高める意図があるという。コンセプトアートをしっかり決めておくことで、その後の後戻りや修正作業が極端に減るそうだ。

「Director is King」<「Story is King」

以前は”Director is King”(監督主義)というスローガンのもと制作は監督からのトップダウン体制が多く、発言権や役割の区別も色濃かったが、現在は、”Story is King”(ストーリー主義)というスローガンのもと、全ての会議の目的をストーリーのために集中できるように工夫がされている。ざっと紹介すると

「会議時にお互いの役職をシャッフル」

「数分ごとに約束事を変える」

「部屋の名前を設定し話題を限定する」…etc.

こうして会議に共通のルールや言語を設定した上で、できるだけ多くの立場の人が一同に会し、「ブレイントラスト」と呼ばれるアイデアや意見を述べる会議を繰り返す。こういった考え方は技術系のスタッフにもしっかり浸透しているそうだ。ではなぜそうなっていったのか?については後述する。

「ブレイントラスト」とはアニメの制作会議というより、まるで脳のグループエクササイズのようなものか。脳が汗をかくという感じ・・・疲れそうである。

多様性をフル活用!「ブレイントラスト」

おいしいものが出てきて、様々な立場のスタッフがごった煮で会議をするのがピクサー流のブレイントラストだ。それは絵コンテやデザイン、プリプロの一部として行われる会議であるが、ここでもアメリカならではの多様な人種や文化背景の人々がオーディエンスであるので、繰り返しになるが会議時にもなるべく多様な立場に人が参加し、意見を述べあう。そこではインターンの出したアイデアが物語のメインキャラに採用されることもあるという。

社内の所属や上下関係は一切、関係ない。

今回の曽根氏のお話しでもっとも心に響いた部分が「特定のストーリー、特定のシーンに必要なクリエイターは決して一人ではないので、それに最も向いている人が担当するべき」という徹底したストーリー主義だ。「大きな蜘蛛に怯えるシーン」には「蜘蛛嫌い」を連れてきて話を聞けということだ。多様性を受け入れないと成り立たない仕組みになっている。

こうしてブレイントラスト会議を繰り返し、作品の骨格や方向性を9割決定してメインプロダクションに入るそうだ。それによって、メインプロダクションでのリテーク数は「格段に」少なくなる。

クリエイターも観客

曽根氏によるとアメリカのクリエイターはタダでは絶対に働かない!(勿論、日本でもそうあるべきだ)また日本と比較して「やろうと決めたことはやる」とか「もう少し時間をかけてクオリティをあげる」という完璧主義や美徳もない。日本風にドライだといえばそれで片付くのかもしれないが、文化背景も違う、多種多様なスタッフを効率的にリバレッジするために、プリプロダクションでのディスカッションの充実は必須のシステムといえる。

また、クリエイター自身の人生が充実していないと優れた作品は描けないので、デートしたり遊んだり、家族と過ごしたり、映画を観たりする時間も大事にされる。そう全てのクリエイターもまた「観客」なのだ。

作る側も元は観客という考えが社内に浸透しているので、作品作りは積極的に他の価値観と触れないと、問題に目が行かないという環境で行なわれる。そういった価値観の中で、使い古されたアイデアや淀んだ意見は自然と排除されているのだろう。

多様な環境下だと問題が共通言語になる

日本では、わりと単一の価値観で暮らしている向きがあるので、伝わりにくいかもしれないが、アメリカは多民族国家。特に曽根氏が育ったL.A.の小学校では、言葉が通じないクラスメートが多いので、自然とお互いの「違い」を認めあわないとコミュニケーションできない。そこでは「お互いの問題」が共通言語となるのだ。

「名言」by エドキャットムル

また曽根氏はコンセプトアートについて、ストーリーの核心を追う過程の議事録のようなものという。一見無駄のようなプロセスやスタッフの会話、経験の中から、問題点の抽出や解決例をアーカイブし、制作のための指標とするのだ。

優れたプリプロダクションとは、映画制作のピークであり設計図だ。その後の制作はその設計図に従いシステマチックに進められるので、前述したようにリテークも信じられないほど少ない。

曽根氏の話を聞いていて、そもそもハリウッドでは無声映画の時代から世界中の誰もが音声なしで見ても面白く、感動する作品作りを目指してきた。グローバル市場でエンターテイメント作品を売るためには言語の壁を取り払わないとならず、そうやって積み上げてきた結果の今があるのだと気付かされた。言葉の壁を超えて、制作者も楽しめないと、誰もが楽しめるエンターテインメントは生まれないのであろう。

またディスカッションではアニメ制作から離れて、日米の言語や文化、働き方から教育の違いなども話題にのぼり、非常に興味深い内容となったのでいくつかをピックアップして紹介する。

・アイデア出しの会議中に相手の意見を否定したりするのはOKだが、相手の人格を否定するのはアウト。(相手を中傷した時点で即時解雇となる。)

・制作へ参加する際に作品作りの動機が語れないスタッフはチームを去ってもらう。
(こうした文化は日本では非常にナーバスになりがちだが、アメリカでは中学、高校でブレインストーミングやディスカッションを徹底的に教育されるので、そもそもルールを破って相手を誹謗中傷する人も少ない。)

・逆に日本では会話時に主語を省いても成り立つ社会なので、そこにある壁や制約が見えづらく、理解したつもりになったまま物事が運んでしまい、結果リテーク数も多くなり制作時間が膨大となる。

・アニメ業界では「なぜそうなる?」という部分がないがしろにされていることも多い。

・アニメ業界にどっぷり浸かってしまうと、業界での共通言語が出来上がっているので他業界とのコラボレーションができない。(筆者的には業界内でさえ、共通言語が曖昧だと思っている。)

昨今のディズニーピクサー映画のテーマを顧みると、タヒチやメキシコなど特定の文明文化に特化した題材を使用し誰もが共感する普遍性を描くことに成功している。CG技術が成熟してきた中で、よりグローバルでパーソナルなストーリーを模索している感がある。

その3)CACANi導入についての報告

宇治部氏(株式会社デイヴィッドプロダクション)

続いて3時限目。動画ソフトのCACANiの導入とその運用について、david productionの宇治部氏に様々な事例を紹介してもらう。

国内のアニメ業界において動画検査の技術を継承するのはもはや不可能!

産業史的に見て、動画は工程の中でセル枚数も最も多い割に、とても繊細な技術で当たり前だが質への要求も高い。本数も増える中でクオリティも求められる工程を、すべて後輩に継承するのは不可能。動画工程は早い段階でデジタル化したが、やっている作業は紙時代と大して変わらなかった。

宇治部氏も制作技術や効率などを考える上でFLASHなども使ったが、どこか今イチと感じていた時に、シンガポールで開発された自動中割りソフトCACANiと出会った。

CACANiはアニメ愛に溢れている。

宇治部氏がCACANiに触れて驚いたのは、その性能だ。

CACANiが出す計算結果はアニメへの愛がないと再現できないような、日本のアニメーションの癖が再現されていた。いまでは、多くのプロダクションが自社で動画まで対応するのは現実的ではなくなってきているが、長年動画検査をやってきて感じるのは、CACANiを3ヶ月ほど実習すれば、5年目のベテラン動画マンのレベルのクオリティでできるようになるということ。時間も通常の半分くらいですむそうだ。アニメ業界に就職したいが、どうやって関わればよいかわからないという学生も多いと思うが、仮に絵が描けなくてもCACANiをマスターすれば、動画はできるようになるとのこと。

Q)原画がしっかり描かれておりなおかつCACANIを知り尽くしてないと、そこまでうまくいかないのでは?
A)原画マンは今までのやり方を変えなくてよい。手書きの作画は美しさを求めるために現実よりも形を少し歪めて描いているため、感覚で描くセンスが必要になる。ソフトだけではどうしても補えない場合は、真ん中に原画を1枚増やすがそれでも中割りは自動なので工程はどうしたって半分以下になる。

大人数のプロダクションでは、ソフトウェアの理解度の個人差、不慣れなベクターデータへの対応など課題もある。そこで、david productionでは作業画面を録画してリアルタイムで問題点を抽出しているそうだ。

CACANIについてはさらなる内容を盛り込んだセミナーが近日中に予定されています。

CACANIセミナーについて

 

今回はここまで。アスタ ラ ビスタ。

(取材、文責、写真:橘 茂生)

(編集:JapanAnimeMedia編集部)

 

→前編はこちらから

【アニメ制作4.0定例会】りょーちも氏によるBlender途中経過〜新進気鋭のコンセプトアーティストの話が聞けた第7回をお届けします!(前編)

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