みなさん、はじめまして。JapanAnimeMediaで取材兼ライターをさせていただくことになった橘と申します。拙い箇所もあるかと思いますがそこはひとつ、ゴリョーショーください!
Contents
はじめに
では早速ですが、初回登板はこちら「Animation Creative Technology Forum」通称ACTFとよばれる業界向けの技術開発フォーラムに行ってきました!っと・・・ところで、こちらJapanAnimeMediaをお読みになっているみなさんは少なからずアニメ制作業界、およびその関連企業で働く方も多いかと思うのですが、アニメの制作現場の技術や環境、ソフトウェアなどについてどの程度熱心に情報収集しているのでしょうか?そういった情報の最新版が体験でき、その上現場が抱える課題なども知ることができるのが、この「ACTF」なのです。
現場の最前線でバリバリ働いているからこそ、日進月歩の技術情報についていく余裕はないよという方は多いと思います。であるからこそ、筆者のレポートを一読いただければ、短時間で、最新の「制作現場への新しい提案」の一端を知っていただくことができます。日々みんなが大好きなアニメ作品をお茶の間に届けるべくがんばっている制作現場へJAMからのエール!が今回のレポートのテーマであります。
題して「ACTFで制作の未来を占う!制作を飛躍的に効率化する魔法の技術って結局あるの?!」です!!
(すでにメインタイトル違うじゃん!というツッコミありがとうございます。初登板ですので、なにそつお許ししを)
ACTFって?一言でいうと
ACTFとは英文タイトルが示すとおり、「アニメーションのクリエイティブ活動を支えるテクノロジーについての会議」なのです!制作現場での新しい試みの実践報告、各種パネルセッションやデジタル化現状と課題解決へ向けたシンポジウムなどのほか、広く国内外のソフト、ハードウェアメーカーのプレゼンテーション展示などが行われる業界向けの情報交換と交流の場となるイベントなのです。
ちなみに2016年もこちらJAMにて取材活動をしているので併せてご参照ください。
イベントの意義や概要については、こちら!(PDF)
テクノロジーを使った解決策に期待!アニメ現場の課題
主な現場が抱える課題といってもアニメ業界では多岐にわたります。ざっとあげるだけでも
・制作本数の増大とスタッフ不足
・制作進行の業務過大化、スケジュールの過密
・制作チーム全体でのクオリティ管理システムの欠如
・低いスタッフ報酬
などなど・・・。
今回はこのフォーラムを取材しつつ、こうした課題解決へ一石を投じる貴重な情報を探してみようと思います。早速、初めてのプレス腕章をつけドキドキしながら会場へ入ってみました・・・。
ドキドキの会場へ入るとみんなナイスピープルだった!
iPad Pro用絵コンテアプリ
開場直後の小ホールでしばらくウロウロしてみると、ブースに立つスタッフの方から気さくに挨拶していただき、場内案内の方もとても優しい対応で一安心。緊張も少し和らいだところで、まず最初に目に付いたのは、iPad ProとApple Pencilを使った絵コンテ作成アプリである。
会場の他のソフトはほぼWacom社のペンタブを使ってデモされている中、今回唯一、Appleユーザー向けのアプリでした。開発したのはデザイナー/イラストレーターの進藤恒氏。

進藤恒氏
業界で絵コンテ作りに特化したアプリは実は意外と少ないのが実情だと思います。スタジオや作家によってフォーマットが異なることも多く、なかなかシステム化し辛いコンテ制作にあえて特化したのは素晴らしい!しかも動画再生可能!ほかにも機能的には以下のようなことが、当たり前だが全てApple Pencilとタッチ操作で行えます。
絵コンテプリの主な機能 ・コンテモード、全画面モード、通常モードと絵コンテ部の連携 ・写真や別ソフトで作成されたイメージの読み込み ・音声録音で簡易アテレコと仮尺だし ・音声データや効果音などの読み込みとタイムライン上での仮編集 ・尺出しのための連動ストップウォッチ機能 ・レイヤー機能(カット枚に縦に追加できる) ・簡易カメラワークアニメーション機能 ・タイムラインを使用した編集機能 ・タイムラインへの内容、セリフの書き込み(コンテモードと連携可) ・mp4出力、他映像ソフト向けXML、EDL出力 ・コンテ用紙PDF出力 ・コンテ仕様の各社カスタマイズ(サーバー版のみ)...etc.
監督や演出家には是非チェックしていただきたいアプリです。カフェなどでアイデアを練りながら描き込むこともできます!自動保存の付いたサーバー版は.TOOよりリリース予定とのこと。
TVPaint
続いて、フランスのTVPaintのブースへ。アイルランドの新鋭作家トム・ムーア監督も長編映画「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた 」(2014年)を制作時に使用したという映像制作ソフトウェアです。
「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」で実際に使った素材データを使いながらデモしてもらいました。
手書きのラフスケッチを取り込んで、レイアウト、クリーンナップ、背景レイヤー、動画、仕上げ、撮影まで1ストップで行えます!さらにムーア監督の作品で一層味わい深くしている効果の一つ、オーガニックなテクスチャー素材なども背景へマッピング可能だ。
フランス人のスタッフさんからはデモ版のUSBメモリもいただきました!デモ版は公式サイトからもダウンロードできるようですので、ムーア監督のような自然観溢れるアニメを作りたい方は一度お試ししてみてはいかがでしょう。
Kodak i3200
展示会場には最新鋭のソフトウェアメーカーが並び、デモされているの中、ズッシリ構えて展示されていたのが、コダックアラリスジャパン株式会社さんのスキャナー「Kodak i3200」だ。
なぜここにスキャナーが・・・?え、コダックってスキャナーも作ってるの?と少々戸惑っていると、スタッフの方が「なんか場違いですよねえ。」と照れながらも親切丁寧にデモをしていただき、いろいろと教えていただきました。
筆者が注目したのは、このスキャナー、穴の空いた部分が黒くスキャンされます!つまり、タップ穴の部分に黒紙をあてる例の複合機への細工は必要ないんです!これは制作現場には朗報ですね。
サイズ違いの紙も連続スキャン可能(毎分50 枚/両面100 面)。通常の原画用紙と拡大作画で大きなった用紙もそのまま連続スキャンできます。(最大A3まで)便利だ〜。さらに紙の搬送性がよく、コピー機が磨耗してくると出る例の謎の黒い線も出ないそうです。
こちらのスキャナー導入を検討される方はこちらまで。(あくまでレポートです!)
セッション部門ではしょっぱなから衝撃のプレゼンが
エクスペリメントラボ(仮)
大ホールでは、各種のセミナーやシンポジウムが開催されました。
その中でもセッション1はとても興味深いものでした。「エクスペリメントラボ(仮)」と名乗り白衣を着た4名のメンバー、作画・演出・監督のりょーちも氏(「夜桜四重奏 〜ハナノウタ〜」「正解するカド」他)、アニメーション作家の塚原重義氏(「端ノ向フ」、最新作は「押絵ト旅スル男」)、迫田祐樹氏(Twiflo, LLC / 企画ビジネスプロデューサー)、大串真央女史(株式会社ツインエンジン / アニメーションプロデューサー)というハッキリ言って異色と言ってよい組み合わせの面々が登壇。
セッション1の講演については開催直前まで内容が明かされなかったこともあり、また白衣を着ての登場に少しミステリアスな雰囲気もありました・・・。が!結論からいうと、「え!?、この手法ならアニメ映像制作フローの上流でかなりクオリティを詰めることもできて、しかもその後の工程の効率もアップするのでは・・・」と感じるような、なんといいますか、「かなり21世紀的」な制作風景が提示されました。
BlenderとVRを使ってプレビズ?

講演タイトルは「Blenderをプレビズで活用するワークフロー紹介と、従来のメディアやフレームにとらわれずアニメ制作を発想していく方法について」
説明文には
我々はあらゆるアニメ制作の形を、従来のメディアやフレームにとらわれずニュートラルに発想していく「アニメ制作4.0」を提唱するアニメクリエイティブラボです。今回は現在制作中の作品の事例を通じて、Blenderをアニメ制作のプレビズシーンで使用するワークフローを紹介いたします。またVRをはじめとした新しいメディアやプラットフォームに向けて、どのようにして今行っている業務を活かせるかの可能性を提示します。*
とある。
「Blender」「プレビズ」「VR」・・・あまりアニメ制作現場では聞きなれない単語が目に飛び込み戸惑っている筆者をよそに粛々とプレゼンは進み、ついにはVRを使用し3D空間でキャラクターに演技をつけ、カメラアングルやタイミングを調整しながら、背景もパースごと自動で動かす・・・!などをほぼ同時に行う過程を実演。最終的には決まったカット動画から2Dのコンテ出力まで行ってしまうという、全く見たことも聞いたこともない(笑)アニメ制作フローの実践デモでした。
演技のタイミングとカメラアングルが決まった状態で各シーンを決定し、動画コンテが出力されてしまえば、後はそれに沿った原画や動画を描いていくのみ。リテイクは理論的にはありえない。すごい、これってハリウッド辺りじゃウン千万もかけて行われる実写映画のカメラリハーサルにも使えるのでは・・おっとこれ以上は言及しない方が良いだろう。
筆者の経験と知識がとぼしすぎて、とても全容を説明しきれません!とにかく詳しくはこちらからも動画つきで紹介されております。ちなみにエクスペリメントラボ(仮)は会社ではなくプロジェクト名ということです。彼ら「エクスペリメントラボ(仮)」の今後の動きに要注目です。
株式会社クリーク・アンド・リバー社

株式会社クリーク・アンド・リバー社のセッション
以降に行われたセッションでも、株式会社クリーク・アンド・リバー社や、株式会社スタジオ雲雀による「Dropbox」や「Google Suites」を使ったチームワークの効率的な情報共有、制作管理の実例報告があり、今日の制作業界のデジタル化のトレンドを俯瞰するのにとても有意義な内容が続きました。
アニメ×デジタルの今が赤裸々に
最後はシンポジウム「デジタル作画はアニメーション制作に本当に必要なのか!?」と題し、フォーラム自らの存在意義に真っ向から挑戦するような内容となりました。
毎クールの新作投入・劇場作品の需要増加に伴い、キャラクター表現の複雑化とクオリティ重視が強まるなか、制作現場では人的リソースの枯渇や制作フローの限界が叫ばれています。デジタル作画が普及する中でアニメーション制作はどうあるべきなのか?その現状と課題、そして未来について議論します。
【登壇者氏名】
モデレーター
・轟木保弘(ACTF事務局)
パネリスト
・りょーちも氏(アニメーション監督・演出)
・宇治部正人氏(株式会社デイヴィッドプロダクション デジタル作画室長)
・盧国華氏(株式会社 暁 代表取締役社長)
・清積紀文氏(ねこまたや アニメーター・システム開発)
・齋藤成史氏(株式会社スタジオ雲雀 システム担当)
まずは各パネリストが各自デジタル化について思われていることをピックアップし紹介します。
りょーちも氏
「現場のデジタル化については自分の過去の経験から、ツールは増えたがユーザー数は逆に減っているような感覚がある」
盧国華氏
「デジタル動画仕上げの注文はここ1年で飛躍的に増えた」
(これについてはシンポジウム中に実データを提示しながらの報告があり、それをうけての下記、宇治部氏の発言)
宇治部正人氏
「動画検査という工程では、デジタルでのデータやりとりをすることで、時間がない中でも密なコミュニケーションが可能になり飛躍的に効率化した」
清積紀文氏
「アナログ作画とデジタル作画は適時適所で現在も行われており、今後も両者の混在からは逃れられない。業務管理が重要視されていないのが問題」
齋藤成史氏
「システム管理の立場から、デジタルと制作を取り巻く環境は整いつつある。新しい使い方も出てくる中、覇権的な手法やソフトが出てくれば導入のハードルも下がるはず」
・・・なるほど、生の現場からの声は説得力あります。アナログ作画はまだまだ現場ではバリバリ現役のようです。
以下に、各トピックごとの議論の要点をまとめてみました。
「デジタル化がもたらす工程の変化、課題について」
デジタルで進化しているとはいえ、機械に頼りすぎず、人間が見極めて決定していくべきことがまだ多い。(宇治部正人氏)
デジタル動画、仕上げの発注に際し「注意事項」の存在の有無について国内でルールも統一規格もない状態は問題。フルデジタル化に成功している企業がそういった規格を整備していくことができるのでは。(盧国華氏)
フルデジタル化によって消失した作業に従事するスタッフへの経験値に基づいた新しい任務の創出も必要になる(齋藤成史氏)
「制作フロー上のリスクを回避できるのか?良くなるのか?」
アニメーションの制作過程は成立しているようで成立していない、工程を数ステップ戻って修正できてしまうのが実は問題。今までは動画マンから原画マンへのステップアップが一般的なキャリアパスだが、個々がスペシャリストではなく、ゼネラリストになり、稼ぎたい時は動画、作品に実績を残したいときは原画でというふうに集まったチームで作業をシェアしながらお互いをサポートする働き方を模索してみるのはどうか。(りょーちも氏)
過去には1・2原画制、動仕電送など各時代のイノベーションがあったが、現在のソフトウェア開発の分野では多数の第三者のアイデアが入っているし、それだけで十分に革新的。デジタル制作フローの問題解決は近いのではないか。(宇治部氏)
とにかく制作時間がない!時間を稼ぐために速度が基準となる。カット袋を車で回収するのは進行の仕事だが、回収時の車の事故などのリスクがある。デジタル化ではもちろんそのリスクはない。(齋藤成史氏)
3Dでの制作方法はアニメ創世記の作り方と似ている。作業完了後は工程を遡れないシステムがありこれがしばしば攻撃対象になっている。
制作フローなどの見直しは業界外からの発想を借りる必要があるし、スタッフ、クリエイターにも意識改革が必要となる。(りょーちも氏)
また、質疑応答ではりょーちも氏が、キャラの顔やアクションの質などのユーザー目線で嬉しい修正を加えることを「贅沢リテイク」とよび過度のサービスを現場に強いる状況に警笛を鳴らしていました。
おわりに
今回は筆者の初レポートということで、拙い文章を最後までお読みいただきありがとうございました。
デジタルの進化の速度はピークを迎えつつあり、今後緩やかになっていくとも言われています。業界もターニングポイントをむかえつつある中、エクスペリメンタルラボ(仮)の発表は衝撃でした。そういった意味でも本フォーラムは発見も多く、アニメ業界にとっては意義深いイベントなので今後も注目して行きたいです。
次回はこの翌日に2連休を使っておこなわれた「アニメ制作課題を解決するアイデアソン」というイベントのレポートで登板する予定です。
それではみなさん、アスタルエーゴ。
(取材、写真、文:橘 茂生)